障がい者雇用とは、国や地方公共団体、民間企業などが、障害者雇用促進法に定められている障害者雇用制度に基づき、障がいのある方を雇用することを指します。
障がいがあっても、安定して働けるように障害者雇用促進法が定められました。法律が定められたのには、さまざまな社会的背景があります。この章では、障がいのある方の雇用が義務化された社会的背景について詳しくチェックしていきましょう
日本の障がい者雇用の歴史は、第二次世界大戦までさかのぼります。第二次世界大戦終了後、日本では「傷痍軍人」と呼ばれる戦争が原因で負傷した身体障がいのある方の増加が問題となりました。
上述の方々を雇用するための法整備を急いで行わなければならなくなったのです。そして、現在の障害者雇用促進法の基盤とも言える身体障がい者雇用促進法が制定されました。これには欧州の「法定雇用率方式」の考えが取り入れられているのが特徴です。
傷痍軍人や戦傷病者を中心とする障がい者の生活はとりわけ困窮を極めました。ですので、政府は職業援護対策の必要性を初めて考えるようになりました。
政府は職業紹介や訓練を実施しましたが、実際は障がいの程度が軽度の方ばかりが対象だったといわれています。このような状況の中、1960年(昭和35年)に制定された身体障がい者雇用促進法が大きな転機となりました。
制定された当初、障がい者の雇用は「~するよう努めなければならない」「~努めるものとする」というような努力義務でした。障がい者の雇用がなかなか進まない状況の中、1976年(昭和51年)に義務化されることになりました。
障がい者雇用の対象となるのは、法制化した当初は身体障がいのある方のみでした。しかし、時代の流れに即して拡大が進み、1987年には名称が「身体障害者雇用促進法」から「障害者雇用促進法」に変更されたのです。
その後、1988年には雇用義務の対象に知的障がいのある方も含まれ、2018年には発達障がいを含む精神障がいのある方も含まれるようになりました。
障がい者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、職業リハビリテーションの措置等を通じて、障がい者の職業の安定を図ることを目的とした法律です。民間の企業が果たすべき義務として以下のことが挙げられます。
前項でご紹介した義務に含まれている「障がい者の雇用」については、従業員数43.5名以上の企業が対象です。43.5名に満たない企業には雇用義務はありません。
障がい者の就業が困難な業種については、雇用義務を軽減する「除外率制度」があります。これは段階的に廃止することとされていますが、一部の業界において除外率が設定されています。
障害者雇用促進法の義務を果たせなかった場合、納付金の徴収や企業名の公表が行われる可能性があります。
企業名が公表されると、大きな損失につながるリスクがあります。障害者雇用促進法の義務を果たせなかった場合について詳しく紹介していきます。
障害者雇用義務に関する報告資料を提出しなかったり、虚偽の報告をしたりすると30万円以下の罰金を支払わなければなりません。
法定雇用率の対象になっているのは、常用労働者100人を常雇用する事業者です。未達成の場合、1人に対して月額5万円の障害者雇用納付金を次回達成するまで支払わなければなりません。
義務を果たせない場合、納付金を支払うだけではありません。その後も障がい者雇用への取り組みが不十分だとみなされると、障がい者雇用義務違反として行政指導が入ります。
雇入れ計画の適正な実施に関して勧告を受け、さまざまな指導を受けたのにも関わらず改善が見られない企業は企業名公表の段階に入ります。
公表される場所は、厚生労働省のホームページです。
企業名は、公開されて終わりではありません。その情報はブログやSNSなどさまざまな媒体で広がり、完全に消し去るのは困難です。
達成したとしても、過去に公表された事実は変わりません。顧客や取引先からの信頼を失くしたり企業の大幅なイメージダウンにつながりかねません。
障害者雇用促進法が制定されて以来、さまざまな改正が行われてきました。2020年4月にも改正が行われ、以下2点について決まっています。
今後も社会情勢やニーズの変化に合わせて、適宜、法改正が実施されると考えられます。
企業が法的雇用率を達成できていなければ、以下のような方法で障がい者の新規採用を進める必要があります。その前に社内で障がい者とのコミュニケーションの取り方やサポート方法、業務配分について話し合う、採用時期や待遇など綿密に採用計画を立て、受入体制を整えておきましょう。整っていない場合は早期退職につながるため雇用の安定が望めません。
ハローワークインタネットサービスでは、事業主が求人者マイページを開設すると、求人の申込み(仮登録)や求人内容の変更、選考結果の入力、求職情報検索などの機能を利用することができます。
障がい者の雇用に関する機能は「障害者専用求人の申込み(仮登録)」と「障がい者求職情報検索」です。事業所仮登録画面で「企業在籍型ジョブコーチの有無」「エレベーターの有無」などを記入することができるため、企業のPRに繋がります。
また、障がい者が公開を希望すると、求職情報検索から障害の種類などの情報を確認できて、障がい者に限定して求職情報を取得することが可能です。
有料の求人広告を利用する方法があります。ハローワーク以上の採用サポートが期待できますが、大手企業や有名企業も求人を多く出していますので、採用するのはハードルが高めです。
自社のホームページで障がい者雇用の求人情報を掲載する方法もあります。自社の従業員が対応するため広告費はかかりません。コストを抑えて募集したい企業にはおすすめです。
障がい者雇用に特化したサポーターが在籍している職業紹介サービスでは、求人情報の策定もおこなっていますので利用してみてはどうでしょう。
長く障がい者雇用を続けたいと考えている企業は、特別支援学校とつながりをもっておくといいでしょう。古くから多くの障がい者を雇用している企業は地域の特別支援学校と交流があるため優先的に紹介してもらえます。学校側に企業の仕事に向いている生徒を優先的に推薦して企業の職場研修をおこなっています。
支援学校とのつながりをまだ築いていない企業は、進路指導員に相談してみるといいでしょう。仕事内容や労働条件を簡単に伝えておけば学校側も喜んで推薦してくれるのではないでしょうか。
1、2年生の実習の打診があった場合は受け入れておくと、生徒が就職活動をする際に推薦してもらえるかもしれません。
採用してもすぐに退職してしまう、ハローワークや求人広告、特別支援学級に求人票を出してもうまくいかないときは、障がい者雇用支援サービスを利用してみましょう。
障がい者支援サービスでは、人材紹介や採用代行、定着支援、コンサルティングなどのサービスが利用できます。
障がい者の採用や定着を利用したい場合は、就労支援機関を連携しているか、自社で足りない部分をカバーしてくれるサービスを選択することです。例えば、株式会社D&Iの「ワクサポ」のように、障がいのある従業員の定着支援に特化したサービスを提供している会社を選ぶといいでしょう。
障害者雇用促進法とは、障がいがある人も、安定して働けるように定められた法律です。1976年(昭和51年)に義務化されたほか、1998年には知的障害者・2018年には精神障害者が新たに雇用義務の対象となるなど、変化しています。
障害者雇用促進法の義務を果たせなかった場合、大きな損失につながるリスクがあります。法定雇用率を満たしていない場合は納付金を徴収されたり、行政指導が入り改善が見られない場合は企業名が公表されたりするリスクがあるのです。ハローワークなどの公的機関と連携して、障がい者を受け入れられる社内体制をしっかりと整えていくことが重要です。